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    八原シロー(Yahara Shiro) /モリキエン(Morrikien)

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    keyword:現代/海外/アクション/逃亡劇/運び屋
    生きるとは呼吸することではない。行動することだ。

Summary -あらすじ-


    ご用命とあらばどこへでも。
    金さえ払えば何でもこなす運び屋、通称「ゴールデン・スパイク」
    国内の端から端へと“少々事情のある”荷物を運ぶ彼の得意先は、専ら表に出ない変わり者ばかりだ。
    その中でもNYで貿易会社を営むノア・シュターデルという男は特に変わっていた。
    年齢不詳で顔が広く、全てを見透かすような言動、その上持ち込む仕事はいつでも“面倒な”ものばかり。
    ある日、サンフランシスコで久々の休日を謳歌していたスパイクは仕事仲介人のゼットから呼び出された。
    依頼主はシュターデル、内容はNYまでとある荷物を運ぶ事。
    面倒ごとの気配に渋々引き受けたスパイクだったが、彼の予感は“荷物”を見た瞬間に的中してしまう。
    渡された“荷物”、それは青白い顔をした痩躯の少年だった。

The cast -配役-

    【配役/♂:4】

     スパイク(♂) 台詞数:89
     ゼット(♂) 台詞数:57
     ノア(♂) 台詞数:39
     ハースト(♂) 台詞数:11

Character -登場人物紹介-


    ◆スパイク(Spike) 男 35歳
    金さえ払えばどこへでも何でも運ぶ運び屋。
    通称「ゴールデン・スパイク(Golden Spike)」。
    銃の腕はそこそこだが喧嘩は苦手。危ない場面は良く回る口とドライビングテクニックで乗り切る。
    あっさりした性格で面倒な事は苦手。
    出来る限り楽に生きたいと思っているが何かと面倒ごとに関係してしまう体質。

    ◆ゼット(Zet) 男 53歳
    顔に大きな火傷の傷がある、鋭い目つきの男。
    あちこちに顔が利く腕利きのブローカーで、スパイクに仕事を持って来てくれる斡旋元。
    余計なことは言わないが、たまに必要な事も言わない為にスパイクからは苦情が絶えない。
    口が悪いが顧客に対しては非常に丁寧。

    ◆ノア・シュターデル(Noah Stader) 男 外見:30歳前後
    NYにある輸入品を扱う貿易会社「エルドール商会」の会長。
    年齢不詳で若く見えるが言動からはかなり年上のように感じられる。
    スパイクには何度か仕事を頼んだ事がある常連客だが、毎回厄介な依頼ばかり持って来るので苦手に思われている。
    今回もまた一段と厄介な仕事を持って来た。

    ◆ハースト(Hirst) 男 26歳
    青白い顔をして長い前髪で顔を殆ど隠したやせている少年。
    見た目は完全に10代後半程度の少年だが実年齢は26歳。
    目視で熱感知が出来る人間サーマル暗視スコープのフリーク。
    生まれつきそう見える為に視界は白黒で熱がある物体は温度に応じて白く見える。
    とある組織の研究施設に長らくいたが、「エルドール商会」によって助け出された。

Main -声劇台本-


スパイク:
「――こちら兵器から日用品まで、御用とあらばこの広い大陸中
 どこへだろうと荷物を運ぶ運送業者ゴールデン・スパイク。何をお手伝いしましょうか?」

ゼット:
「そのクソ長いどうでも良い口上はどうにかならねぇのか。
 聞いてるこっちの身にもなってみやがれ」

スパイク:
「…なんだゼットか。クソ、今度こそは美人からの仕事の依頼かと思ったのによ」

ゼット:
「悪かったな。
 お前好みの“上品で大人しそうなのに
 ベッドの上ではリードしたがるテクニシャンなグラマラス熟女”じゃなくて」

スパイク:
「うるせぇよ!俺の好みはどうでもいいだろうが!
 …それで、今日はどうしたんだ?お前から連絡がくるってことは何か仕事か?」

ゼット:
「あぁ、そうだとも。プライベートまでお前に関わる気はねぇからな」

スパイク:
「ひどいな!プライベートな用事…
 例えばお前がヘマして夜逃げするときなんかに頼ってくれたっていいんだぜ?」

ゼット:
「生憎そうなる予定はねぇよ。
 だがまぁ…もしそうなったら正規の引っ越し屋に依頼する」

スパイク:
「なんだよつれないな…お前と俺との仲だろう?」

ゼット:
「仕事斡旋してやってる奴と、仕事を恵んでもらってる奴の関係だな」

スパイク:
「本当お前って奴はいつ話してもつまらねぇなぁ……ジョークの一つでも言えねぇのか?」

ゼット:
「エルドール商会の旦那がお前をご指名だ」

スパイク:
「(ため息をついて)…あのなぁ、ジョークを言えとはいったが
 ジョークってのは笑えるからこそなんだぜ?場を白けさせちゃあ意味が無い」

ゼット:
「やるのかやらねぇのか、どっちだ」

スパイク:
「だから笑えない冗談はいい加減に――」

ゼット:
「どっちだ」

スパイク:
「…え、おい、マジ?」

ゼット:
「“マジ”だ」

スパイク:
「嘘だと言ってくれよ、ゼット…!」

ゼット:
「いや、残念ながら言葉の通りだ」

スパイク:
「くっそ…あー…行きたくねぇ…仮病どころか、忌引ってことで親類縁者皆殺しにしてでも休みぇ…」

ゼット:
「じゃあ断るか?」

スパイク:
「馬鹿言え!旦那からのご指名だぞ!?断れるわけがねぇだろうが!
 断ったら最後、明日の太陽どころか今晩の月さえも拝めなくなっちまう」

ゼット:
「それじゃあYesってことでいいんだな」

スパイク:
「あー…やる気でねぇ。絶対次もクソ面倒くせぇ仕事だぜ…」

ゼット:
「旦那の持って来る仕事に楽なモンがあるか」

スパイク:
「NYからマイアミまで一日で荷物届けろ、って言われた時よりは簡単であることを願う。
 …そういやあの時の荷物、中身はなんだったんだろうな。妙に湿ってて生臭い匂いがしてたが…」

ゼット:
「運び屋が客の荷について詮索するんじゃねぇ」

スパイク:
「そりゃそうだが……また変なモン運ばされて、3ヶ月もストーカーされたらたまんねぇよ」

ゼット:
「ほぉ…お前を付け回すなんて酔狂な奴がいたもんだ」

スパイク:
「野郎に付け回されたって嬉しくねぇよ」

ゼット:
「そいつらは結局なんだったんだ?」

スパイク:
「旦那を潰そうと企んでたどっかの企業の息のかかった連中。
 旦那も始末してくれるならもうちょい早くなんとかしてほしかったぜ。
 こちとら3ヶ月もストレスまみれの生活を送るハメになっちまった。
 ストレス社会だのと言われる現代で、何が悲しくて四六時中見張られてなきゃならねぇんだよ」

ゼット:
「だが良かったじゃねぇか」

スパイク:
「良かった?」

ゼット:
「墓穴掘るような事態にならなくて」

スパイク:
「はは、なんだジョークも言えるじゃねぇか!
 ターゲットに自分の墓穴掘らせてから殺す、って?そりゃあ映画の見すぎだ。
 そんな面倒で証拠が残るような事する奴いねぇよ」

ゼット:
「そうだな。普通はもっと巧妙に処分する。
 バラして犬の餌にするなり、山の中に埋めちまうなり、第三者を雇ってどっかへ運ばせるなり…」

スパイク:
「…え、おい、まさか、俺にそんなことさせてねぇよな?」

ゼット:
「…………ああ、勿論だ」

スパイク:
「おい、なんだよその間…!
 そりゃあ俺は金さえ詰まれれば何でも運ぶとは言ってるが、死体とドライブなんて嫌だぞ!?」

ゼット:
「だが今までの仕事で心当たりはねぇんだろ?
 だったらお前が運んでたものは“普通の”荷だったってわけだ」

スパイク:
「まぁ…妙な荷物を預かった覚えは――
 ……おい、ゼット。一つ確認したいんだが…
 前回の旦那の依頼、俺がNYからマイアミまで運んだ荷物ってあれ…中身なんだったんだ」

ゼット:
「さてなんだったか。一々覚えてねぇよ。
 それにお前が不審に思わなかったんだ、目的地も普通の場所だったんだろ?
 なら大したモノはいっちゃいねぇ」

スパイク:
「あの時はマイアミにあるデカい工場で荷物引き渡して…
 なんだったっけな、確か食肉加工の工場だとか…
 ――あ…うん、この話はヤメだ!客の荷物について詮索したっていい事は一つもない!
 そういや依頼だったな!旦那からだっけ?」

ゼット:
「先に話振ったのはお前だろうが。…まぁいい、それで今どこにいるんだ?」

スパイク:
「サンフランシスコ」

ゼット:
「それは知ってる。サンフランシスコのどこだって言ってんだよ」

スパイク:
「チャイナタウンだよ。あちこち観光して帰ろうかと思ってな」

ゼット:
「観光の前に、まずは俺に挨拶しに来るべきじゃねぇか?」

スパイク:
「なんでサンフランシスコまで来てゼットに会わなきゃならねぇんだよ!
 お前と顔付き合わせて茶を飲むくらいなら、チャイナタウンで野良犬に餌配ってた方が
 数百倍有意義だね」

ゼット:
「そっちがその気なら俺も然るべき対応をとるぞ。
 …だがチャイナタウンか、なら…そうだな、30分後にドッグパッチだ。細かい場所は地図を送る」

スパイク:
「はぁ!?おい待てよ、いくらなんでも早すぎるだろうが!
 手土産もって挨拶に行かなかったのがそんなに気に障ったのか?
 仕方ねぇなぁ…適当に美味いもん見繕って挨拶に行ってやるから拗ねんなよ…」

ゼット:
「馬鹿か。依頼の関係だ」

スパイク:
「鮮度が関係する荷物なのか?」

ゼット:
「俺が長らく手元に置いておきたくない」

スパイク:
「くっそ!また面倒くせぇ依頼か…!お前がそう言う時は嫌な仕事って決まってんだよ!」

ゼット:
「だが旦那の仕事だ。諦めろ」

スパイク:
「…40分後にドッグパッチだな、了解した」

ゼット:
「30分後、だ」

スパイク:
「わかったわかった」

ゼット:
「遅れて来ても俺は一向に構わん、が…旦那がどう思うかは知らねぇぞ」

スパイク:
「……もちろん、時間通りに行くさ」


・それからきっちり30分後。
 携帯に送られて来た地図のポイントが示す、今は使われていない倉庫にスパイクは辿り着いていた。
 倉庫の前に車を止めて中へ入るとそこには既にゼットと、その後ろに彼が乗り付けた車があった。



スパイク:
「よぉ、ゼット。
 久々に見たが相変わらず傷らだけで凶悪な顔してんのな。元気そうでなによりだぜ」

ゼット:
「そういうお前はまた一段とスラム街うろつく野良犬みてぇになったな。
 まだピンピンしてるようでなによりだ」

スパイク:
「…そりゃどうも。で、仕事ってのは?」

ゼット:
「詳しい話はもう少し待て。荷は運んで来てある」

スパイク:
「待て、ってのはどういう意味で?追加で何か来るってことか?」

ゼット:
「いや、約束がある。そろそろの筈だが…
(携帯が鳴る)さすが、秒単位で時間通りだ。
(電話を取って)――はい。ええ…その通りに。…はい、ここまでは何事も。
 ただあちこち騒がしいんでそれも時間の問題かと。……そうですね、ええ、手配しましょう。
 いえ、いつもお世話になっています。では代わりますので詳しい話は奴と…ええ、では。
(スパイクへ携帯を渡して)ほらよ、旦那からだ」

スパイク:
「(小声で)げっ…
 ――はい、お電話代わりました。
 こちら兵器から日用品まで、御用とあらばこの広い大陸中
 どこへだろうと荷物を運ぶ運送業者ゴールデン・スパイク。
 この度はご指名頂き、ありがとうございます。それで、本日は何をお手伝い致しましょうか?」

ノア:
「やぁ、スパイク君。こうして話をするのは久しぶりだが、変わらずに元気にしているかい?」

スパイク:
「ええ、おかげさまで。相変わらず忙しく飛び回ってますよ」

ノア:
「それは重畳。では早速で悪いが仕事の話をさせてくれ」

スパイク:
「あー…それで、今回はどちらまで運べば?」

ノア:
「NYの商会本社まで荷物を届けて貰いたい。
 到着日時に指定はないから他の依頼のついででも構わない。」

スパイク:
「ついででもって…それは例えば、到着が一ヶ月後でもいいということですか?」

ノア:
「そういうことだ。遅かったからといってクレームを付けたり
 賠償を求めたりはしないから安心してくれ。
 だが…出来るだけ早く運んだ方が君にとっても負担が軽いとは思うがな」

スパイク:
「…数点確認しても?」

ノア:
「どうぞ」

スパイク:
「鮮度を保つ必要はないんですね?」

ノア:
「時間経過で鮮度が落ちるようなモノではない」

スパイク:
「急いで旦那が手元に欲しい、という品でもない?」

ノア:
「あぁ。仕事で使うとしても必要となるのは暫く先のことだろうな」

スパイク:
「細心の注意は払いますが、火気や磁石を近づけてはいけないだとか、何か注意点は?」

ノア:
「そうだな…一般常識内で、手荒に扱わないでくれれば大丈夫だろう。他には?」

スパイク:
「…正直聞きたくないんですが、最後に一つ。
 “出来るだけ早く運んだ方が良い”というのはどういう意味でしょう?」

ノア:
「簡潔明瞭、至って単純な事だ。荷の簒奪を狙っている不逞の輩がいる」

スパイク:
「あ~……やっぱりそう来たか…
 ちなみに、追っ手はどこのどいつなんです…?」

ノア:
「追っ手の所属は二つ。一つは国内大手軍需メーカーであるゴッドリッチ・タイナー社。
 もう一つはメンフィスのギャング組織、ノーテルマンズ」

スパイク:
「ゴッドリッチ・タイナーの方は利権関係での対立だろうと察しがつくんですが…
 ノーテルマンズの方はどういう流れで?」

ノア:
「メンフィスにも支社があるんだが、どうやら彼らは
 我々がそちらまで足を伸ばすのが気に食わないらしい。
 どんな手段を用いても邪魔をしてやろうという算段なのだろう」

スパイク:
「概要は掴みました…つまり、その二組織の追っ手を交わしながらNYへ運べば良いんですね」

ノア:
「NYに入ってしまえば彼らも諦めるだろう。
 諦めない場合は出来る限り穏便な方法でご退場願う事になるだろうが…まぁそういうことだ。
 よろしく頼むよ、スパイク君」

スパイク:
「あー…はい、分かりました」

ノア:
「先程、前金として半額3万ドルを入れておいた。
 残りはいつも通り荷物の受け渡しが確認出来たら払おう。
 それと今回は少々手がかかる荷物だ、迷惑代として色を付けさせてもらう。楽しみにしていてくれ」

スパイク:
「はぁ…それは、どうも…」

ノア:
「さてと、それではゼット君を交えて話しをしたいので彼にも聞こえるようにしてもらえるかな?」


・ノアにそう促されて一度耳から携帯を放すと、
 スパイクは慣れない機種に戸惑いながらもなんとかスピーカーモードのボタンを押した。
 ノアの声が倉庫内に響く様になる。



スパイク:
「はい、ええと…これでいいですかね?」

ノア:
「聞こえているかな?」

ゼット:
「ええ、問題なく」

ノア:
「では細かい打ち合わせに入ろう。それで首尾は?」

ゼット:
「追跡は巻きましたが念には念を入れて、その後車両を三度変えて移送。
 今のところここは嗅ぎ付けられていません。
 …が、向こうも金に物を言わせて人海戦術を始めたようだ」

ノア:
「ふむ、あまり長いはしない方が良さそうだ。それで、人海戦術というのはどちらが?」

ゼット:
「ゴッドリッチ・タイナーです。
 まぁこの辺りは奴らのお膝元なんで使える駒も多いんでしょう」

スパイク:
「あぁ…そういやゴッドリッチ・タイナーの本社はココか。
 つーことは、街を出るのが最初の関門だな…
 いや待て、ノーテルマンズのホームはメンフィスだろう?という事は……」

ゼット:
「前半はゴッドリッチ・タイナー、後半はノーテルマンズの猛攻が予想される」

スパイク:
「州間高速道路を行くのが一番近いが…」

ゼット:
「見張ってはいるだろうな。
 だがデカい道路はそれだけ他人の目もある、奴らも表立って騒ぎを起こす事は避けたい筈だ」

スパイク:
「どこで休憩を取るかが問題だな。寝込みを襲われたんじゃ洒落にならねぇ。
 最短を考えるならI-80だが…あー…シカゴの近くは通りたくねぇな…」

ゼット:
「……?
 あぁ、少し前にシカゴの連中と揉めたんだったか。じゃあちょいと遠回りだがI-70経由か?」

スパイク:
「セントルイスか…ノーテルマンズがメンフィスにいるんだろ?
 それを考えると…くっそ、ミズーリ州に近づきたくねぇ…」

ゼット:
「じゃあI-10で南ルートか?そっちの方が面倒くせぇと思うがな。
 そもそもサンフランシスコから南に出るのが手間だ」

スパイク:
「うーん…敵の拠点が西と東に分散してるのが厄介だな…
 追っ手を撹乱することを考えると道中何度か車両を変える必要も出て来る」

ノア:
「ふむ…君たちの考えは把握した。
 ではこうしよう、シカゴを通過する最短ルートを取ってくれ。
 その代わりシカゴにいる私の知人にバックアップを頼もうじゃないか」

スパイク:
「旦那の知人、ですか…?」

ノア:
「暫く前に貸しを作ってある。債務回収の良い機会だ。
 君がシカゴで誰と揉めたかは知らないが、問題なく通過出来るだろうし宿も提供させよう」

スパイク:
「分かりました、それで頼みます。それでその“知人さん”との連絡はどうすれば?」

ノア:
「綿密な策は隙がないが、故に脆く、現場の状況と噛み合なければすぐに崩れる。
 だからこそ我々は柔軟にいこうではないか。
 シカゴに近づいたらゼット君経由で連絡をしよう」

スパイク:
「了解」

ノア:
「サンフランシスコから出るまではゼット君が面倒をみてくれるんだったかな?」

ゼット:
「はい、街からは問題なく送り出してみせますよ。情報工作も一応仕掛けますが…
 まぁ、多少足止めになるかならないかって程度かと。後はコイツの力量次第です」

スパイク:
「…はは、責任重大ってわけだ。ま、任せといて下さいよ。
 俺も伊達に運び屋家業を続けてはいない。
 請け負ったからには必ずお客様の元までお運びしますよ」

ノア:
「その言葉を聞いて安心した。
 やはり君に頼んで正解だったな、スパイク君。ではよろしく頼むとしよう。
 それでは君も心待ちにしているであろう、荷物についてだ。ゼット君、頼むよ」

ゼット:
「はい」

スパイク:
「荷物はもう持って来てあるんだったよな?お前の車しかないが…そんなにデカくねぇのか?」

ゼット:
「まぁ…お前よりは“デカく”ないだろうな。
 ……ほら、こっちだ。倉庫の中だが見えるか?あぁ、問題なさそうだな。
(スパイクに向き直り)ほらよ、コイツが今回お前が運ぶ“荷物”だ」

ハースト:
「……。」

スパイク:
「……はぁ!?荷物って…お前、これ、ガキじゃねぇか…!どういうことだよ!?」

ゼット:
「どうもこうも、これを運べって仕事だよ」

スパイク:
「俺はガキのお守りの為に呼ばれたってのか!?
 冗談じゃねぇ、そういうのはシッターに頼めよ!」

ノア:
「予想通りの反応で何よりだ。
 だが君は相応の料金さえ払えばなんだって運んでくれるのだろう?
 それが“ゴールデン・スパイク”売り文句だったな」

スパイク:
「うっ……確かにそうは言ってますけど…でも旦那、これは話が違う!
 飲み食いせず黙って静かに荷台に乗ってる荷物と、ガキとでは大違いだ!」

ノア:
「食事の世話がいる、と言うのは確かにそうだが…彼はそれ以外では大人しい。
 それこそ荷台の荷物と同じようにね。
 しかも言葉が通じるだけに普通の荷物よりは役に立つ筈だ」

スパイク:
「だが……」

ノア:
「君が休憩を取る時に一緒に休ませ、君が食事を取る際に一緒に食べさせればそれで問題ない。
 彼も状況はよく分かっている。君の言う事には従うし、身勝手な行動はしないと約束するだろう」

ゼット:
「観念しろスパイク。前金は既にお前の口座に振り込まれてんだ。
 それに話を聞いちまった後で“今からやめます”が通じると思ってるのか?」

スパイク:
「分かってる、分かってるが…抵抗せずにはいられねぇんだよ……」

ノア:
「どうする?この仕事を辞退するかい?」

スパイク:
「いえ、喜んで引き受けさせて頂きますよ…その代わり迷惑料、弾んでもらいますからね…」

ノア:
「勿論だとも。では彼の紹介をしよう。
 詳しい事は長い道のりの間に二人で話して貰うとして…彼の名はハースト。
 箱入り息子でね、外界の事には疎いが頭は良い子だ。
 戸惑う事も多いだろうが、その時は教えてやってくれ。きっとすぐに覚える」

スパイク:
「ハースト、ねぇ。
 単に不健康そうな10代のガキ、って感じですが…コイツ喋れるんですよね?」

ノア:
「彼はシャイだから君に戸惑っているんだろう。
 だがこれから長い二人旅になるんだ、挨拶は重要だろう?ハースト君?」

ハースト:
「…あ、ええと……ノアさんの元まで、送り届けてくれる人だと…聞きました」

スパイク:
「……喋った」

ゼット:
「珍獣じゃねぇんだ、喋る」

「ハースト君、彼はスパイク君。前に話したように君をNYまで送り届けてくれる。
 彼は輸送のプロだ、いかなる事態でも対処法を心得ている。
 道中は彼の言う事を聞いて大人しくしているんだ、いいね?」

ハースト:
「はい、わかりました。その…よろしく、お願い、します」

スパイク:
「だがなんつーか…コイツふわふわしてて、現実味がないというか…」

ノア:
「中々に人目を引く子だろう?」

スパイク:
「こんな青白い顔で突っ立ってるひょろ長いガキがいれば、
 10人中10人が二度見するでしょうね」

ノア:
「それと教えておくと彼は26歳、とっくに成人済みの大人だ。
 君から見れば子供の部類に入るのかもしれないが」

スパイク:
「26…!?嘘だろ?どう見たってティーンエイジャーだ」

ゼット:
「お前のその見た目で人を判断する癖、どうにかしろよ。前もそれで痛い目みてただろうが」

スパイク:
「だって…ゼット、お前これ見て26だって言われて信じられるのかよ?」

ゼット:
「信じるも何も旦那がそう言ってんだ。そうなんだろ」

スパイク:
「っていってもなぁー…あれ、ということはつまり、
 ゴッドリッチ・タイナーとノーテルマンズはこいつを追っかけてるってことになるのか?
 それとも荷物の中身をしらねぇ、とか…?」

ノア:
「彼は使い方によっては莫大な利益を生み出す存在だ、狙いたくなる気持ちも分かる。
 それに元々は私たちがゴッドリッチ・タイナー社の研究施設から強奪したのだから、
 取り戻しにきてもおかしくはない」

スパイク:
「…これもしかして、俺、拉致実行犯で指名手配とかないですよね?」

ノア:
「“拉致”とは聞こえが悪いな。そもそも彼とは合意の上だ。だろう、ハースト君?」

ハースト:
「…ノアさんが、連れ出してくれるって…言うから。
 お願いしますって、僕が頼んで…ええと、だから、拉致では…ないかと」

ゼット:
「強制的に連れ去ったわけじゃないなら拉致ではないでしょうね。
 …まぁ、甘言で誘い出したなら“誘拐”にはあたるかもしれねぇが」

ノア:
「心配はいらない。
 ゴッドリッチ・タイナー社も、彼および彼のいた施設については表沙汰には出来ないさ。
 国内大手軍需メーカーが裏では人間兵器の開発に勤しんでいたなんて、
 スキャンダルどころの話ではないだろうからな」

スパイク:
「人間兵器?このガキが…?」

ノア:
「彼は人とは違った眼を持っていてね。彼の眼は熱を感知する。
 言うならばサーマル暗視スコープのようなものだ。
 ゴッドリッチ・タイナー社はその力に目を付け、彼を戦場で兵器として使うべく研究をしていた。
 そのせいで彼は長らく施設の中に閉じ込められ、外界を知らずに育ったのだよ」

スパイク:
「“フリーク”って訳か……」

ノア:
「こちらからは以上だが、他に質問は?」

スパイク:
「一応聞いときますけど、こいつ…あー、ハースト?って荷物として扱えばいいんですかね。
 それとも戦力として数えても?」

ノア:
「彼が納得するのなら何をさせてくれても構わない。こういうのも社会勉強の一環だろうからね。
 傷つけずに運んでくれれば、道中何があったかは問わないと約束しよう」

スパイク:
「わかりました。いざとなったら身を守る事くらいはして貰わなきゃなねぇかもしれないし…
 あー……ハースト、お前銃とかは?」

ハースト:
「ううん、使った事ない…」

スパイク:
「だよなぁ…」

ゼット:
「そのヒョロい身体だ、撃ったらこいつの方が吹っ飛びそうだしな」

ノア:
「ふむ、問題はなさそうだな。NYまで道のりは長い、あとは二人で親交を深めあってくれたまえ」

スパイク:
「親交、ねぇ……まぁ頑張らせてもらいますよ」

ハースト:
「ええと、はい…あの、頑張ります…?」

ゼット:
「さてと、そろそろ時間だ。そうそう奴らも囮に引っ掛かっていてはくれねぇだろ」

スパイク:
「それじゃあ行くとするか。ハースト、お前は後ろの席に乗れ。
 それで街を出るまでは蹲ってできる限り姿隠してろ」

ハースト:
「は、はい…わかった」

ゼット:
「街を出るまではこっちでナビしてやる。電話繋いどけ」

スパイク:
「ああ分かった、頼んだぜ?ゼット」

ゼット:
「ふん、俺を誰だと思ってんだ」

ノア:
「ではゼット君、スパイク君、二人とも彼をよろしく頼むよ。
 彼は我々商会にとっても大切な存在でね。無事NYまで届けてくれる事を期待している」

スパイク:
「旦那の信頼を裏切るようなことはしませんよ。一両日中に…って訳にはいかねぇが、
 できる限り早く届けてみせますよ」

ゼット:
「ええ、いつも通り完璧な仕事を」

ノア:
「その言葉を聞いて安心した。ではよろしく頼む。スパイク君、NYでまた会おう」


・そう言った言葉を最後にノアからの電話が切れる。
 通話が切れた事を確認するとスパイクとゼットはどちらともなく顔を見合わせると頷きあった。



スパイク:
「さぁてと、気合い入れて行くとするか!」

ゼット:
「ヘマすんじゃねぇぞ。旦那の荷物だ、死んでも届けろ」

スパイク:
「ああ、任せとけ」

ハースト:
「あの…ええと、俺…その……何もできなくて…」

スパイク:
「(大きなため息を付いて)…お前は荷物なんだから素直に運ばれてればいいんだよ」

ハースト:
「…っ!ご、ごめんなさい…!」

ゼット:
「“仲良くしろ”って旦那に言われたばっかだろうが。なに怖がらせてんだ」

スパイク:
「ガキの扱い方なんてしらねぇんだよ…あー~~くっそ!
(右手を突き出して)ほら!」

ハースト:
「え…?なに?」

スパイク:
「何って…この状況で握手以外に何かあるのか?
 これから長い時間一緒に過ごすんだ、よろしく頼むって意味だよ。ほら」

ハースト:
「……っ!
(両手で差し出された手を握り)よ、よろしく、おねがいします、スパイク…!」

スパイク:
「ああ。驚きのスピードでNYまで届けてやるから、腰抜かす準備をしてろよ?」


・運び屋の男と痩躯のフリークの青年。
 不思議な二人は追っ手に追い立てられながら一路、NYを目指す。



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